ピアノ調律―なぜ必要なのか
最近、あるピアノ教室の先生のお宅にお伺いした際、レッスンの時生徒から「先生のピアノのコードはどこにあるの?」と聞かれた事があったというお話をして下さいました。
ここのところ電子ピアノなどの普及でアコースティックのピアノを用いるご家庭は減ってきているようです。なので「コードのないピアノ」を知らないお子さんがいてもしょうがないのかも知れません。たしかにアコースティックのピアノは場所も取りますし、メンテナンスに関してもお金と手間がかかりますので、ご家庭の諸事情により、電子ピアノを選ばれるのも仕方がないと言えば仕方がないのかもしれません。
しかし、やはりアコースティックのピアノを使うのと電子ピアノを使うのとでは、大きな違いが生まれます。よくピアノ教室の先生方がおっしゃるのですが、電子ピアノで練習をしてきたお子さんは発表会の時に本物のピアノの鍵盤が重くて弾けないのだそうです。
話は「調律がなぜ大切か?」と言う事より、「アコースティックのピアノを使う事がなぜ大切か?」という話から始まってしまいましたが、「調律の必要性」と言う事に話を戻したいと思います。
お子さんにピアノを習わせておられる皆さんの中に、「うちでは小さな子供がピアノを弾いているだけなので、調律をするのはもったいないんです。」とおっしゃる方がおられます。果たしてこの考えは正しいのでしょうか?いいえ、小さなお子さんが弾くからこそ、調律を毎年きちんとするべきなのです。
子供たちは日々、驚くような成長を遂げていますが、小さな時から正しい音を聴き続ける事によって、正確な音感を身に付ける事が出来るのです。これは大人になってから習得しようと思っても、なかなか簡単にいくものではありません。私は以前、「調律.net」にこの事に関する記事を投稿しています。(「ピアノが好きになった子供、その小さな芽を大切に育てたい」参照)以下はその記事からの抜粋です。
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ある調べ物をしていた時に、著名な作曲家でエッセイストでもある吉松隆さんのホームページに、こんな事が書いてありました。
『私が「作曲をやる」と言い出した時、父に昔の友人であるプロの音楽家のところに連れて行かれました。
<<中略>>
で、お宅に伺ったら、ピアノでひとつ音を弾いて「これ、何の音?」と聞かれました。それで「B♭」って答えたら、「残念、Aです」。半音違ってたわけです。で、「まあ、作曲をやるなら、せめて音楽大学に行きなさい」と(笑)。でも、家に帰って調べてみたら、うちのピアノほとんど調律してなかったので、半音低かったんです。だから、ちゃんと調律した普通のピアノではAの音が、うちのピアノで覚えてしまった耳にはB♭に聴こえる。あ、これで絶対音感はダメだ、と(笑)。』
※ <音は低くなる> ← A⇒B♭⇒B⇒C → <音は高くなる>
※ A(ラ) B♭(シ♭) B(シ) C(ド)
吉松さんの家のピアノは、丁度いい具合にすべての音が半音ずつ下がっていたのでしょうか。それにしても、狂いに狂った音階を聴きなれた耳には、正しい音階で奏でられる演奏はいったいどう聴こえるのだろう。
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宝石の鑑定士は子供にまず、本物の宝石だけを見せて本物を見分ける目を養うのだそうです。その次に本物と偽物を混ぜたものを見せるのだそうですが、本物を見て養われた目は偽物を直ぐに見分けるそうです。
子供の耳も正しく調律された音を聴いて育つなら、確実に正しい音を識別できる耳が養われる
のです。これは親が子供に残してあげられる貴重な贈り物ではないでしょうか?
どんなに素晴らしい食材で料理を作っても、もし塩やスパイスのバランスがとれていなかったなら、おいしいはずの料理も台無しです。同じ様に、どんなに優れた楽器でも、また優れた演奏家であっても、もしピアノが正しく調律されていなかったなら、聴く人々に感銘を与える演奏は出来ないでしょう。
ですから、ピアノ調律はしてもしなくても良いものなのではなく、お子さんを良い音楽教室へ通わせるのと同じ程、大切なものと考えて頂きたいとおもいます。